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バイクを愛してしまったら、手入れしてあげたくなるのは自然なこと。


 
2020.01.13

FORD vs FERRARI

 
フォード vs フェラーリ 見てきました。

とても楽しいイイ映画で僕はこの映画が大好きになりました。
それで次の日家でもう少しレースの映画が見たくなってGT40が出ている「男と女」が見たかったんですが、どこにも見つからなくて、「グラン・プリ」がAMAZON Primeにあったんでこれを見ました。
 
長い映画でしたが、これがまたいいんです。
映画評で「レース好きにはいいけどドラマ自体は割と一般的なもの」みたいに書いてあったんですが、僕の評価は違います。
 
「フォードvsフェラーリ」の方が割り切ったエンターテインメントであるのに比べると「グラン・プリ」の方が深い話のように思いました。
 
こんなシーンがあります。主人公の一人イヴ・モンタンが演じるジャン・ピエール・サルティはベテランで、走ることにすでに少し疲れています。そして恋人に言うんです。
「何てバカバカしいんだ」
「速く走って生き残って‥‥それが何だ。」
「ニノは命がけで得たトロフィーに酒を注ぎ
スコットは走るために薬に溺れている。どう考えても異常だろ。」
 
そしてフェラーリから引退を迫られる多大なプレッシャーをかけられながらも、最後の勝利を目指したレースであり得ないほどの速さで追撃する途中でサルティは事故を起こして死んでしまうんです。
 
「グラン・プリ」は1960年代の半ばに、すでにF1レースをただ美しく憧れの対象として描くだけではなく、人が生きる意味をもレースを通して問いかけようとしています。
 
「フォード vs フェラーリ」でも主人公のドライバーは最後のレース後練習中に死んでしまい、それはとても悲しい出来事ですけれども、でも彼がレースの殿堂に表されたことを最後の字幕が告げ、それが救いになっています。つまり彼は死んでしまったけれどもレースの世界で表彰されてよかった、ということだと思います。これは速く走ることの価値に疑義をはさんではいませんよね。悲劇的だけれどもそれ故にさらにカッコいい、ということでしょう。
 
60年代のレースというのは今から見るととてつもなく野蛮です。ドライバーの上半身が車のどの部分より高く上に突き出ていて、あれでは車が転倒したら死なない方が不思議です。なんとシートベルトもしていません。ピットとコースの間には境もなく、一般人がコースに立ち入っている部分さえあります。一般公道でレースをしていたんですものね。
 
世界大戦からもそれほど遠くなかった時代には死は今よりずっと身近なものだったのかもしれません。でも、彼らだってそれだけになおさら必死で生きることの意味を考えていたのでしょう。それがちゃんと「グラン・プリ」の映画では描かれています。
 
最後のレースの前にそれぞれのドライバーが抱えているトラブルや問題が描かれていました。誰もが人間として自分の問題と闘って生きていたんです。
 
クルマやオートバイで速く走ることの意味。僕はエンジン屋(内燃機屋)の社長としてそのことについて今までも何度もいろんな機会に論じてきました。20世紀には最高のエンジンを持って世界一速く走ることはとてつもない意味をもっていた。すくなくとも第二次大戦までであればレシプロエンジンの乗り物で世界一の速度を出すことができたら、世界を征服することだってできたんです。世界一速い戦闘機に乗っていれば誰にも撃墜されないんですから。「協調の21世紀」である今と違ってF1の速さも「競争の世紀」20世紀にはまだそこにつながっていた。戦争というのは競争の究極の形ですからね。まだジェットエンジンもICBMもない時代には確かにそうだった。
 
ただ60年代にはエンジンが持つ速さの意味はすでにやや薄れていたのではないのでしょうか。だから「速く走って生き残って‥‥それが何だ」という言葉には意味があるんです。すでにICBMもジェットエンジンも実用化されたあとの時代ですから。
 
60年代当時に作られた優れた映画にはすでにこのように、オリンピックが掲げるような「より速く、より高く、より強く」というような20世紀的価値観に対する疑義が提出されていたと考えるのはとても面白いし、レースの魅力を存分に伝えながらも一方で映画が時代の潜在意識を正確に掬いとっていたとすれば、映画も優れた芸術なのだということにもなろうかと思います。
 
その点「フォード vs フェラーリ」の方はエンターテインメントとして今から60年代を振り返って、「あの時代には速度が世界の憧れだったのだ」と単純化してしまって素朴に速さに熱狂して見せると言うのは、エンターテインメントとしてはそれでいいのだろうと思います。
 
ということで「フォード vs フェラーリ」はとても楽しい大好きな映画になりましたが意外や「グラン・プリ」もとても深い素晴らしい映画だったことを発見してしまった、というお話でした。
 
               
 
 
 
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